史上最も暑いツール・ド・フランスが、なぜ史上最速だったのか
2026年のツール・ド・フランスが何かひとつで記憶されるとすれば、それは容赦ない暑さでしょう。最初の9ステージの平均気温は32.4°C、いくつかのステージでは40〜41°C近くに達しました。極端な暑さでコースが短縮されたステージがあり、かつてないほど積極的な冷却戦略が展開され、タデイ・ポガチャルは夏の危険な暑さを理由にレースカレンダー全体の見直しを訴えました。
その一方で、史上最速級のレースも見られました。第11ステージ(ヴィシー〜ヌヴェール)は平均時速50.91km/hでツール史上最速のロードステージに。時速49km/h超のステージが3つあり、これは1回のツールでは前例がありません。21ステージ全体の平均は43.3km/hで、総合タイムも史上最速でした。
なぜこんなことが可能なのか。暑さがパフォーマンスを損なうことはわかっています。2016年のレビュー(Jungeら、14研究)では、30°C以上での長時間タイムトライアルにおける平均パワー出力は、平均15%低下すると報告されています。
「暑さへの耐性は個人差が大きい。条件が厳しいと大幅にパフォーマンスが落ちる選手もいて、40%を超える低下を計測したこともあります」——オーラヴ・アレクサンダー・ブー(Uno-X パフォーマンス責任者)
COREはワールドツアー8チームと提携しており、今年のツールでプロトンが極端な暑さにどう対処していたかを内側から見ることができます。
主なポイント
- 全体として選手たちは厳しい気温に非常にうまく対応していました。徹底した暑熱順化プロトコルと積極的な冷却戦略の成果と考えられます。ほとんどのステージで、HSIがヒートゾーン3(パフォーマンスへの影響が顕著になる領域)に入るのは短時間にとどまりました。
- 熱ストレインは気温とともに増加しましたが、気温だけで選手の熱反応をすべて説明できるわけではありません。暑いステージほど熱ストレインは概して大きくなったものの(主に皮膚温の上昇による)、ステージ間のばらつきも大きく、運動量、空気の流れ、日射、レース展開といった要因も影響していました。
- 興味深いことに、気温に11.7°Cもの幅があったにもかかわらず、最高深部体温は比較的安定していました(約38.5°C)。選手たちが深部体温を調節できていたことを示しています。一方、皮膚温は環境に直接さらされるため、気温上昇に比例して上がります。この皮膚温の上昇が心血管系と体温調節への負担を高め、暑いステージでのHSIの高さに反映されたと考えられます。
暑熱順化
上記のデータは、2026年ツールに向けて暑熱トレーニングに大きく注力したチームのものです。多くのチームが冬のトレーニングキャンプの時点で屋内暑熱セッションを導入していました。その後もシーズンを通じてさまざまな形で暑熱準備を織り込み、5〜6月のヨーロッパの熱波を活かして屋外走行で自然な適応を得たチームもあれば、屋内の集中的な暑熱ブロックを続けたチーム、さらには高地トレーニングの効果を延長・代替する目的で戦略的に暑熱を使ったチームもありました。
「今年、イラン・ファン・ウィルダーについては高地を暑熱に置き換えましたが、昨年の高地トレーニングとほぼ同等のヘモグロビン値が得られました」——コーエン・ペルフリム(Soudal-Quickstep トレーナー)
いずれの場合も、チームはCOREで各選手の生理を個別に把握していました。体温調節は選手ごとに大きく異なり、各選手がどう反応しているかを本当に理解するには個別モニタリングしかありません。
「COREセンサーは、トレーニングとレースの両方で各選手の熱ストレインを継続的に把握するために、日々のパフォーマンス業務に組み込まれています」——ジェローン・スワート博士(UAE Team Emirates パフォーマンス責任者)
冷却戦略
暑熱トレーニングに加えて、チームが使ったもうひとつの武器が冷却戦略です。今年のツールでは、クーリングタオル、アイスソックス、クーリングミット、前腕のアイスバス、アイススラリーなど、かつてないほど多様で広範な冷却戦略が使われました。冷却は単なる涼しさの体感以上に、実質的なパフォーマンス効果をもたらします。
「深部体温が低い状態でステージを始められれば、パフォーマンスに影響が出るレベル(ヒートゾーン3)に達するまでの余裕が長くなります。プレクーリングが重要なのはこのためです」——カルレス・トゥール(Pinarello-Q36.5 ヘッドコーチ)
冷却は回復にも使われました。21ステージのレースでは、数週間にわたる連戦でパフォーマンスを維持するために回復が決定的に重要です。走行中は高い気温にさらされていても、レーススピードによる空気の流れが対流と汗の蒸発を通じて大きな冷却効果をもたらします。しかしフィニッシュ後に停止すると、この冷却効果が突然失われ、体内に蓄えられた熱が放散されるにつれて皮膚温と熱ストレインが上昇します。熱ストレインはステージ後30分間も高いままになりえます。ポストクーリングは、この余分な負担を減らし、回復を助ける非常に有効な手段です。
思考の冴え
気温が上がると、影響は身体面にとどまりません。認知機能、集中力、意思決定、反応時間はいずれも過度の熱ストレインで低下しえます。より暑熱に適応していた選手ほど、プロトンの複雑で速い展開にうまく対応できた可能性が高いと言えます。
「暑熱順化は身体的パフォーマンスだけでなく、高速の下りや、アタックを察知して反応する場面など、一瞬の判断が求められる局面で思考の冴えと反応時間を保つためにも重要です」——シャビエル・ムリエル(Movistar Team パフォーマンス責任者)
秒差で決まるレースでは、思考の冴えを保つことは、パワーを保つことと同じくらい価値があります。
結果が語るもの
史上最も暑いツールで、COREを使う選手たちが総合表彰台を独占し、4つのジャージすべてを獲得、21ステージ中15勝を挙げました。
世界的な気温上昇が続くなか、プロトンの各チームは、暑熱順化プロトコル、洗練された冷却戦略、そしてリアルタイムの生理モニタリングなしには競争力を保てないと認識し始めています。
