米国代表コーチ テレンス・マホン氏による、サウナから始めてレース当日まで導く実践プロトコル。

暑い条件や厚着でのトレーニングに入る前に、私はまず運動をしない状態で暑さに慣れることから始めてもらいます。レースに向けた専門的トレーニング期の2週間前からサウナ(赤外線でも従来型でも可)を使います。
この導入の目的は、選手が「汗をかくこと」を学び、身体を冷やすのに十分な発汗率を確保することです。最初の2週間をサウナ漬けにすると、選手は身体的にも精神的にも「暑さの壁」を越え、2週間前よりはるかに大きな熱ストレスに耐えられるようになります。発汗を「悪いもの」ではなく「暑くなったときに身体を冷やす良い道具」として捉えられるようになるのです。同時に、HSIを制御するためにどれだけ水を飲む必要があるかも学べます。
サウナに適応できたら、厚着した状態での屋内イージーラン、または天候が許せば屋外でのランへ移行します。強度は最大心拍の70〜80%程度。初期の段階で体温を上げすぎないためです。扇風機や窓を閉めたトレッドミルで、少し多めに着込めば簡単に実現できます。
セッションの長さに応じて、その後サウナで20分ほど追加し、その日の暑熱トレーニングを合計40分にします。ゆっくり積み上げるこのアプローチにより、選手は焦らずに適応でき、インターバルやテンポ走でペースを落としすぎて「体力が落ちる」と感じることもありません。
マラソン専門期に入ったら、まず選手ごとの基準値を確立します。シーズン初めのロング走の朝に測定し、期間中も定期的にチェックします。
体重(ランウェア着用・シューズなし)/尿検査(尿比重計があれば。走る前に十分な水分状態か確認)/血糖値/乳酸値(前日の練習の影響を確認)/COREセンサーによる深部体温(走行中も装着)
レースコースにできるだけ近いコースを設定。5kmごとに給水し、計画しているジェルも摂取。中間地点で一度停止し、血糖・乳酸・HSI・心拍を測定。一定のペースなので、心拍ドリフトや乳酸の急上昇が最小限であることを確認します。HSIの上昇は想定内ですが、レッドゾーン(HSI 7超)に入らないかを確認します。
身体を拭いてから体重測定。その他の数値も走行前と比較。加えて、走行中に摂取した水分量とカロリーを記録します。目標は体重減少を最小限に抑え、血糖・乳酸をこの練習に見合った範囲に保つこと。
初期の適応作業が終われば、週3〜4日の追加暑熱刺激でコンディションを維持できます。可能なら暑熱セッションの間に通常練習の日を1日はさみます。
マラソン・テスト走:レース当日に近い条件で行うマラソン専門のテスト練習です。20〜25kmをマラソンペース前後で走ります(良好な条件下で同様のセッションを1〜2回経験してから行うこと)。
この走行ではプレクーリングを伴うウォームアップを実践し、レースで使う予定の給水計画をそのまま実行し、通常の指標をすべて追跡します。走行後にデータを確認し、最後の3〜5kmで目標ペースから落ちているようなら、レース終盤のオーバーヒートを避けるため目標ペースの調整が必要とわかります。重要レースの前に2〜3回まで行えますが、通常より厳しい練習になるため十分な回復期間を組み込みます。
暑く晴れた条件でレースをする前に、皮膚を日光に慣らすことが十分に行われていないと感じています。暑熱トレーニングと並行して、日差しを浴びても暑さを感じにくくなる程度の日焼けを推奨しています。春のできるだけ早い時期、または冬に暖かい場所で合宿する際に始めます。
選手によっては20〜30分の日光浴を数回で足りますが、より多くの回数が必要な場合もあります。レースウェアと同等かそれ以下の露出の服装で、当日日光に当たる部分をすべて曝露させます。メラニンの生成を促すことが暑熱耐性の向上につながると考えています。UVの観点からは早朝の日光浴が最も安全です。
ハードな練習日、特にレース当日は、会場到着後に日焼け止めを塗ることは勧めていません。多くの日焼け止めは毛穴をふさぎ、暑い日に問題を起こしうるためです。皮膚がんが心配な方や敏感肌の方は、自宅で早めに塗って練習で試すなど、個別に調整します。
悪条件での競技を理解するうえで最大の障壁は、選手が常に「今日のパフォーマンス」を自己ベストと比較してしまうことです。自己ベストは平坦なコースや完璧な天候の日に出るものですが、次のレースのスタートラインに立つとき、私たちはその要因を十分に考慮しません。
あるコーチから「さまざまな条件・季節における自己ベストを選手に把握させるとよい」と教わり、以来ずっと実践しています。特定の会場でのベストだけでなく、暑い日・風の日・寒い日・雨の日、そして秋・春・夏それぞれのベストを知っておく。視点は経験と知恵から生まれます。